「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる」(著:小山田咲子)

旅に本は必需品!という方は多いのではないでしょうか。

移動時間をはじめ、ふだんよりまとまった時間がとれるので、敬遠しがちな
重厚な長編ものも、これしか持ってない!となったら貪るように読めてしまうし、
予定不調和な旅の途中、平常心を保てる軽やかなエッセイものもあったら嬉しい。

ということで、旅の準備でいちばんに手をつけるのは、決まって本探しなのだけれど、
ほんのさわりだけとぺらりと開いたら、結局、誘惑に負けて読んでしまうこと数冊。
「カルカッタの殺人」
「6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む」
「ヌヌ 完璧なベビーシッター」

わたしのアンテナ外の面白い本をいつも紹介してくれるレッスンのお客さまからお借りした
「風が強く吹いている」(著:三浦しをん)は、箱根駅伝を目指す大学生たちの物語で、
読み始めからぐっと惹きこまれ、これは買って持って行こうかとも思ったのだけれど、
先が知りたくて我慢できず、結局一晩で読了(涙)。

「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる」(著:小山田咲子)
これは旅に出る前に読んでよかったなと思ったエッセイ。

’81年生まれの小山田咲子さんが早稲田大学在学中の21歳から24歳(2002年から2005年)のときに
綴ったブログを抜粋して一冊の書籍にまとめられたもので、
思わずジャケ買いしてしまいそうな旅好きにはぐっとくるこの題名は、
2003年3月24日の「北にむいた岬のように」からつけられたとのこと。

長期休みを使っては、世界中を旅していた咲子さんだからこその、
ほろりとこぼれる本音の気持ちを言葉にしたこの表現は、旅に行きたくなる時の気持ちに
ぴたりとはまります。
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「北にむいた岬にように」(2003/3/24)
実際のところ旅行ってあんまり得意じゃなくて、地図は読めないし英語も下手だし、
すりも誘拐も食あたりも怖いので、私には家でじっとしている生活の方が向いているのだろう、
しかし、もう結構息苦しい。
日常の雑事を全てとりあえず収めるべき場所に収めて(あるいはなかったことにして)
深夜に荷物をまとめ、えいやっと部屋を飛び出す、あの一瞬をやっぱりどうしても愛してると思う
穏やかな日常に幸せを感じるのと同じ強さで今、いなくなりたい。
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旅のことだけでなく、就活や教育実習のこと、アルバイト、大学の授業、卒論、社会問題などなど、
どこにでもいる普通の大学生の日常を綴っているようでいて、
でも、日々の雑事にまぎれてこぼれおちてしまうような、誰もが感じたり、想ったりすることが、
小山田さんのアンテナの高さや方向性、好奇心、言葉を紡ぐ技術にかかると、
誰かを勇気づけたり、嬉しい気持ちにさせたり、大丈夫だよと励ます力になるのだなぁと感心します。

最後のブログ記事の10日後に、旅先のアルゼンチンでの事故で帰らぬ人となってしまったことが本当に惜しい。
親交のあった鴻上尚史さんも書かれているように、彼女の作品、彼女自身が、遅かれ早かれ、
間違いなく世に出ていただろうなと思います。

以下はわたしの想いと重なって書き留めた文章。咲子さんワールドに触れてみてくださいね。
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 「ストレート」(2004/4/5)
理解し終わったと思ってしまったら、その関係は行き止まりだ。
今現在同じ時間を過ごしていない人とは、過去の中でしか話せない。
過去に起こったことは全てもう「起こってしまった」ことで、それ以上にもそれ以下にもなりようがないから、安心だ。
安心だけど、私は別にそういうのは欲しくない。少なくとも、今はまだ。
私は、今、目の前で生きて変化し続けている人と話をしていたい。あたりさわりのある話をしたい。
本気で泣いたり怒ったりできる関係の中でないと、本当に美しいものも分かち合えないと思うからだ。
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「salyu」(2005/8/15)
仕事があるっていいな。取り組まなくてはならないことがあること、会わなければならない人がいること、小さくても責任が生じてること。とりあえずまっすぐに立っていられる。たくさんあるのはつらいけど。
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そんなわけで、わたしもえいやっ!と飛び出してきます。
2月のレッスンは残り12日(水)、13日(木)、14日(金)、15日(土)です。
レッスン再開は3月10日の予定です。2月・3月のスケジュールはこちら

日本坂峠から満観峰へのハイキングコース
眺望抜群!また計画しますね。

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