(映画)パディントン

イギリスとフランスの合作映画『パディントン』、続編の『パディントン2』を最近、観ました。
ユーモアたっぷり、でもホロリと涙がこぼれる、そんなココロの温度を上げてくれる映画。

個人的には、パディントンが初めて見た”歯ブラシ”をどう使えばいいかわからず、
すんごい汚れていた耳の中をぐるぐるお掃除して気持ちよくなって(笑)、
当然気づいていないご主人が、それで歯磨きしちゃうところがツボ。
他にも、仕事もカラダも中年の危機に瀕するご主人が、ヨガを練習するシーンや、
実際にそれが事件の解決にちょっぴり役立っちゃう(?)ところも必見です。

 

でも、シリアスな内容もしっかりと土台にあって、バランスが絶妙で、本当に深い物語。

くまのキャラクターは知っていたけど、実は、絵本を読んだことがなかったわたし。
映画を観て、はじめて、パディントンが”暗黒の地”ペルー出身の孤児(孤熊)で、
ペルーでの育て親のルーシーおばさんの計らいで、ロンドンにやってきたことから
物語が始まることを知りました。

パディントンが新天地ロンドンで懸命に自分の居場所を見つけていく様子は、
『魔女の宅急便』のキキにちょっぴり似ています。
映画『パディントン』でも、こんなシーンがあります。

「よくわかるよ、新しい場所は不安だよね」

パディントンに対して、ずっと冷たかったブラウン一家の長女ジュディと初めて心が通ったときの会話で、
彼女は、実は転校先の学校で、自分の立ち位置を見つけようとかっこつけたり、悩んだり、
パディントンが懸命にロンドンでの生活に馴染もうとする姿に大いに勇気づけられるのです。

原作者マイケル・ボンドが「くまのパディントン」を最初に書いたのは、1958年ということ。
当時のイギリスはカリブ諸国からの移民が大勢流れ込んだ時代でもあり、
第二次世界大戦に従軍していた経験もある作者は、戦争孤児や難民のこと、
時代とともに変わっていくロンドンの人種や文化の多様性を、児童文学とはいえ(児童文学だからこそ!)
しっかりとバックグラウンドに据えている。
だから、大人になっても読みたくなる、子どもに読んで聞かせたくなる、長く愛されるシリーズに
なったんだなと納得しました。

ルーシーおばさんは、親切で礼儀正しくあれば世界は正しくなるって言ってた。

ルーシーおばさんは、人の良いところは探そうと思えば必ず見つかるって言ってた。

パディントンは、今で言えば、移民&難民くま。
でも、育て親のルーシーおばさんの教えをしっかりと守るパディントンや受け入れる家族や町の人々の姿は、
今まさに移民問題に端を発したEU離脱問題で難航するイギリスだけでなく、
世界にじわりと広がる”自国第一主義”の解決の糸口になるのかもしれないし、
もっと言えば、わたしたちの身の回りの、本当に身近な生活でも役立つ大切なメッセージだなと感じました。

パディントンを受け入れた一家のご主人ブラウンさん役をやった俳優さん(ヒュー・ボネヴィル氏)の
インタビュー記事の中にこんなくだりがありました。

 「私たちはみんな、パディントンのような経験をしてきたと思う。
  人生のある時期には誰だって、新入生になったり、街を引っ越したり、見知らぬ国に行ったりして、
  他者の助けに頼りながら 溶け込んで一員になろうとすることがある。~中略~
  世界中の緊張関係や敵対心は、互いへの理解や寛容な心が足りないことから起きているのだと思う。」

 「人間の本質について問いかけ、寛容の気持ちや、人の中にある最良のものを見いだそうという作品なんだ。」

マイケル・ボンドの伝えたかったことは、戦時下を生きた日本の哲学者 三木清の言葉「幸福は伝染する」 とつながっているように感じました。

読書の秋、せっかくなので原作の児童書を読んでみようかなと思っています。
映画をまだご覧になってなかったら、秋の夜長に、ぜひ。
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