『迷子の魂』オルガ・トカルチュク (文) ヨアンナ・コンセホ(絵) 小椋 彩(訳)


ヨガというと、カラダを動かす〈アーサナ〉調息=呼吸法といわれる〈プラーナーヤーマ〉がクローズアップされがちですが、なぜ、それをやるのかという理論=八支則をおおまかにでも知っていると知らないとでは、ヨガレッスンや日々の練習で得られる効果が少しずつ変わってきます。

アーサナの完成度や身体への〈執着〉ばかりが増すと、怪我をすることもあるので、その先にある〈心を客観的に観察できるヨガの効果〉を忘れないよう頭の片隅において、わたしも練習を続けています。

Q.そもそもヨガとは?

A.心の働きを静止させるもの

Q.心の働きを静止させるとどうなる?

A.”自分自身が何か”を知ることができる


〈思考〉は湖の水の波紋のようなもので、水面が荒れていると湖の底を見ることはできませんが、水の動きを止めることで湖の底を見ることが出来ます。

同じように、人の心の水面も、
考えごとでいっぱいのときはさざ波のように揺れ、
忙しすぎて思考停止状態のときは凍りつき、
他人への嫉妬に苛まれるときは澱み、
〈自分が本当にやりたいこと〉〈好きなコト〉〈どう生きたいのか〉〈どう暮らしたいのか〉といった健やかで幸せな〈自分自身〉が見えづらくなります。

だから、アーサナやプラーナーヤーマを通して、〈自分のために、自分の時間を使う練習〉〈静かに過ごすことの練習〉がおススメされるのです。

2月のバンクーバー港は凍ってました!

先日、作家の高橋源一郎さんのラジオ「飛ぶ教室」で紹介された絵本『迷子の魂』を読んだら、〈静かに待つ〉ということが描かれていて、ヨガだけにとどまらず、国や世界を超えた普遍のテーマなのだと感じました。

作者の伝えたい〈迷子の魂〉とは、あわただしい毎日のなかで見失ってしまった、じぶん自身のこと。

わたしたちを上から見たら、忙しく走り回る人で世界はあふれかえっているでしょう。みな汗をかき、疲れきっている。そしてかれらの魂は、いつも背後に置き去りにされて、迷子になっています。魂がじぶんの主に追いつけないのです。これが大きな混乱のもとです。魂が頭を失う一方で、人びとは心を持つのをやめるのですから。魂にはじぶんが主を失ったのがわかるのに、人びとは魂をなくしていることに、往々にして気がつかない

〈魂〉=じぶん自身を見つけるために、賢い医師がすすめたのは、
忙しく過ごす代わりに、じぶん自身はどこにも行かずに、なにもしないで、ただ待つこと。

ノーベル文学賞作家でもある作者のオルガ・トカチュルクさんは、コロナ禍の真っただ中、ドイツの新聞の求めに応じて寄稿したエッセイにこう書かれたそう。

わたしにとって、ずっと前から、世界は何もかもが過剰だった。多すぎるし、速すぎるし、うるさすぎる

世界中で移動が制限され、みなが家にとどまることを余儀なくされたときに〈見えたもの〉や〈良い気づき〉が、制限がなくなった後も継続されるといいですよね。

また、この絵本、文章だけでなく、ヨアンナ・コンセホさんの美しいイラストが、文章が読めない子どもでも内容を理解できるんじゃないかなぁと思うくらい素晴らしいのです。
はじめはモノクロから始まり、主人公が〈魂を待つ〉と決めるとだんだん世界が色を取り戻していくように、色彩豊かになり、最後には・・・目にも鮮やかな美しい花の絵。



もうひとつ、わたしのおススメの「マカン・マラン」シリーズの一冊にも、ドラァグクイーンのシャールのこんな名言がありました。

「本心の隠し場所さえ、ちゃんと自分で分かっていれば、それはそれでいいのよ」

 「そりゃ、この世の中は複雑で冷たくて、思い通りにいかないことだらけよ。 仮面が必要なときだってあるわ。でもね、どれだけ意に沿わないことをしなければならなかったとしても、自分の本心の隠し場所さえちゃんと分かっていれば、人は案外、自分の道を歩いていけるものよ。」 


古内一絵(著) きまぐれな夜食カフェ』風と火のスープカレーより

この世の中は、純粋さや本音だけで生きていけるほど、甘くはないし、我慢や忍耐が必要なことだってたくさんある。
仕事に、家事に、育児にとめいっぱい忙しい人生のピーク時は、悠長に自分を観察する時間なんてないかもしれない。少なくともわたしには皆無でした・・・_| ̄|○

でも、そんな時でも、
〈自分の本心の隠し場所を自分でちゃんとわかっていること〉=〈魂を迷子にさせない〉
が大事なんだなぁと。

梅雨入り、これからは台風も多い季節ですが、心の湖面を平静に、ヨガの練習続けていきましょう♪

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